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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』63

last update Last Updated: 2025-01-23 16:44:16

八月になり、久実から帰国するとメールが届いた。経過が順調で無事に退院でき日本に戻って来られるそうだ。

やっと会えるのだと思うと、嬉しくて何度も繰り返しそのメールを読んだ。

日本の病院に入院し、しばらく様子見てから自宅に帰ることになっているそうだが、愛する人の命が延命されたことが何よりも幸せだった。

そして、久実が帰国した日に、俺は病院へ向かった。

入院していたのは個室で、部屋に入ると顔色がよくなっていて昼ご飯を食べ終えたところだった。

「赤坂さん、ただいま!」

「お帰り、久実」

少しだけふっくらしたように見える。

「九月には退院出来るって。少し自宅で体力をつけて、十一月には社会復帰もできるよ。薬を飲み続けなきゃいけないけど、こんなに体が楽になって、夢のよう。全部、赤坂さんのおかげだよ。ありがとう」

笑顔を向けてくれる。

俺は嬉しくて言葉にならなかった。

「じゃあ、十月頃に退院祝いをしよう」

「うん、ありがとう」

目を合わせて微笑み合うことができる幸せを噛み締める。

好きな人と、同じ場所で同じ空気を吸えることが、こんなにも素晴らしいことだと気がつかせてくれた。

俺はずっと、久実と生きていきたい。

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